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潤滑油・グリース講座 - 産業

生分解性潤滑油とは? ~ 環境保護と機械保護を両立

1.生分解性潤滑油とは?

建設機械や船舶、林業機械など、自然環境の中で使用される機械では、油圧作動油やグリースの漏洩による環境汚染リスクが常に存在します。

こうしたリスクを低減するために注目されているのが生分解性潤滑油です。

生分解性潤滑油とは、自然界に放出された場合でも、微生物の働きによって比較的短期間で分解される特性を持つ潤滑油です。万が一の油漏れや流出が発生した場合でも、従来の鉱物油系潤滑油と比べて環境への影響を低減できることから、河川・港湾・海洋・森林など環境負荷への配慮が求められる現場で採用が進んでいます。近年では環境性能だけでなく、高い潤滑性能や長寿命化を実現した製品が開発されており、建設機械や産業機械の分野でも採用が拡大しています。

一般潤滑油との違い

一般的な潤滑油の多くは鉱物油をベースとしており、優れた潤滑性能を持つ一方で、自然界に流出した場合には長期間残留する可能性があります。

一方、生分解性潤滑油は環境中の微生物によって水や二酸化炭素などへ分解されるため、土壌や水域への影響を抑えることが期待できます。

近年では技術の進歩により、環境性能だけでなく、「優れた潤滑性能」「高い耐摩耗性能」「優れた低温流動性」「長寿命化」「省メンテナンス化」を実現する製品も増えており、「環境対応」と「機械保護性能」の両立が可能になっています。

 

生分解とは何か

「生分解」とは、微生物が有機物を分解し、自然界に存在する物質へと変化させる現象を指します。

生分解性潤滑油は、土壌や水中に存在する細菌や微生物の働きによって徐々に分解されます。

ただし、「生分解性」とは使用中にオイルが分解してしまうという意味ではありません。

機械の中では潤滑油として十分な性能と安定性を維持しながら、環境中に放出された場合には生分解が進むよう設計されています。

 

自然界で分解される仕組み

生分解性潤滑油が環境中に放出されると、微生物はオイル成分を栄養源として取り込みます。

その後、「微生物が油の成分を分解」「水や二酸化炭素などへ変換」「自然界の循環へ戻る」というプロセスが進行します。

もちろん分解速度は温度や湿度、微生物の存在量などの環境条件によって異なりますが、適切な生分解性を備えた潤滑油は、環境負荷の低減に大きく貢献します。

 

生分解性だけでは環境性能は評価できない

生分解性潤滑油には、一般的に次の3つの要素が求められます。

「生分解性」:自然環境中で微生物による分解が進みやすいこと。

 

「低生態毒性」:魚類や水生生物などへの悪影響が小さいこと。

 

「生物無蓄積性」:生物の体内や食物連鎖の中で蓄積しにくいこと。

 

このため、現代の環境配慮型潤滑油は、単に「生分解する油」ではなく、「分解しやすく、生物への影響が少なく、環境中に残留しにくい潤滑油」として評価されています。

 

2.なぜ今、生分解性潤滑油が注目されているのか

近年、建設業界や港湾・海洋分野では、環境保護に対する社会的要求が高まっています。

特に、「河川工事」「港湾工事」「洋上設備」「ダム関連設備」「林業機械」「自然公園内の建設機械」などでは、油漏れによる環境リスクへの対応が重要な課題となっています。

また、企業にはSDGsESGへの取り組みが求められるようになり、環境配慮型製品の採用は単なるイメージ向上ではなく、事業継続や社会的責任の観点からも重要になっています。

生分解性潤滑油は、こうした環境対策の一つとして活用されるだけでなく、高性能な作動油やグリースとして機械の信頼性向上にも貢献する選択肢として注目されています。

 

3.生分解性はどのように評価されるのか?

「生分解性潤滑油」と表示されていても、すべての製品が同じ性能を持つわけではありません。

そのため、生分解性潤滑油には国際的な試験方法や規格が設けられており、製品がどの程度環境中で分解されるか、また環境配慮型潤滑油として適切な性能を備えているかが評価されています。

 

OECD試験による生分解性評価

生分解性の評価では、OECD(経済協力開発機構)が定める試験方法が世界的に広く採用されています。この試験では、潤滑油が微生物によってどの程度分解されるかを測定します。

OECD試験では一定の基準を満たした場合、「易生分解性(Readily Biodegradable)」として評価されます。

この評価により、万が一潤滑油が自然環境中へ流出した場合でも、微生物の働きによって比較的速やかに分解されることが確認できます。

 

ISO 15380とは

ISO 15380は、生分解性油圧作動油に関する国際規格です。

単に生分解性を有するだけではなく、「生分解性」「生態毒性」「機械性能」「酸化安定性」「腐食防止性能」などを総合的に評価し、油圧作動油として十分な性能を備えていることを求めています。

建設機械や港湾設備、河川工事機械など、環境負荷低減が求められる用途において、生分解性作動油を選定する際の重要な基準となっています。

 

EN17181とは

EN 17181は、環境配慮型潤滑油の要求事項を定めた欧州規格です。生分解性に加え、潤滑油を構成する原材料の環境適合性や生態影響についても評価対象とされており、製品のライフサイクル全体を考慮した環境性能が求められます。

 

世界の環境認証(エコラベル・環境基準)

環境配慮型潤滑油の普及が進む欧州や北米では、生分解性や低生態毒性、生物無蓄積性などを評価する環境認証制度(エコラベル)や環境基準が整備されています。また、日本においてもエコマーク制度により、生分解性潤滑油に関する認定基準が設けられています。

これらの認証制度や環境基準は、製品が一定の環境要件を満たしていることを客観的に示すものであり、潤滑油選定時の重要な判断材料として活用されています。代表的なものとして、欧州のEU Ecolabel、日本のエコマークといった環境認証のほか、ISO 15380EN 17181などの規格、スウェーデンのSwedish Standard、米国EPAVGPVessel General Permit)などの環境基準が活用されています。

4.生分解性潤滑油には種類がある

生分解性潤滑油には、基油(ベースオイル)の違いによりいくつかの種類があります。植物油系(HETG)は優れた生分解性を有する一方、高温環境では酸化しやすく、寿命や安定性に課題があります。ポリアルファオレフィン(PAO)系(HEPR)は優れた潤滑性能や低温特性を有していますが、生分解性潤滑油としては合成エステル系ほど一般的ではありません。ポリグリコール系(HEPG)は生分解性を有するものの、防錆性や他油種との互換性に注意が必要です。

※ HETG、HEPRHEPGHEESは、ISO 15380で定義される生分解性油圧作動油の分類です。

 

合成エステル系(HEES)は現在の主流で、生分解性に加えて潤滑性能、耐摩耗性、酸化安定性、低温流動性に優れています。また、合成エステルには飽和エステルと不飽和エステルがあり、飽和エステルは酸化安定性や長寿命性に優れることから、高負荷・長時間運転が求められる建設機械などで広く採用されています。シェル パノリンS4シリーズもこの飽和エステルを採用しています。環境性能だけでなく、使用条件や機械の要求性能に応じた選定が重要です。

 

5.環境性能と機械性能を両立するために

・生分解性だけでは十分ではない

重要なのは、生分解性の高さだけで環境配慮型潤滑油の優劣は決まらないということです。

実際の現場では、「油圧機器の保護」「摩耗防止性能」「長寿命化」「省メンテナンス化」「過酷な温度条件への対応」といった潤滑油本来の性能も求められます。

そのため、高品質な生分解性潤滑油は、「OECD試験による生分解性評価」「ISO 15380適合」「EN 17181適合」といった環境性能だけでなく、主要油圧機器メーカーの厳しい要求性能を満たす高い機械保護性能も実現しています。特に、Bosch Rexrothをはじめとする主要油圧機器メーカーの承認・認証を取得した製品は、耐摩耗性能や酸化安定性、長寿命性などが厳しく評価されており、環境配慮型潤滑油でありながら高性能作動油として使用できることが証明されています。

 

6.油漏れがもたらす環境リスク

たった1回の油漏れがもたらす影響

建設機械や港湾設備、林業機械などでは、ホースの破損やシールの劣化により予期せぬ油漏れが発生することがあります。漏れた油は土壌や河川、海域を汚染し、生態系へ影響を及ぼす可能性があります。また、油の回収や汚染土壌の処理には多大な清掃コストが発生し、状況によっては工事の中断や設備の停止につながることもあります。さらに近年は企業の環境責任が重視されており、油漏れ事故は企業イメージや社会的信用の低下を招くリスクもあります。そのため、漏洩防止対策に加え、万が一の環境負荷を低減できる生分解性潤滑油の活用が注目されています。

 

7.生分解性潤滑油導入で期待できるメリット

高性能な生分解性潤滑油の導入は、環境対策だけでなく、企業活動や設備運用にもさまざまなメリットをもたらします。

環境面では、万が一油漏れが発生した場合でも、土壌や河川、水域への影響を低減し、環境汚染リスクの抑制に貢献します。

運用面では、CSRESGへの取り組みを具体的に示すことができるほか、環境配慮を重視する発注者や自治体の要求への対応にも有効です。近年では河川・港湾・森林関連工事などで、環境負荷の低減が重要な評価項目となるケースも増えています。

技術面では、高性能な生分解性潤滑油を選定することで、優れた潤滑性能や耐摩耗性能により機器の摩耗を抑制し、設備の安定稼働に貢献します。また、酸化安定性に優れた製品では、オイル交換周期の延長や保守作業の低減につながり、ライフサイクルコストの削減にも貢献します。

このように高性能な生分解性潤滑油は、環境保護だけでなく、設備保全、運用効率の向上、企業価値の向上を同時に実現できる有効な選択肢となっています。

 

8. よくある誤解

生分解性潤滑油に対しては、「環境には良いが性能面で不安がある」というイメージを持たれることがあります。しかし、その多くは過去の製品や一部の製品に対する認識によるものです。

誤解1:「生分解性=すぐ分解する」

生分解性とは、自然環境中に放出された場合に微生物の働きによって分解される性質を指します。保管中や機械の使用中にオイルが勝手に分解してしまうわけではありません。

誤解2:「性能が低い」

近年の高性能な生分解性潤滑油は、主要な油圧機器メーカーの承認取得や厳しい性能試験をクリアしており、耐摩耗性や酸化安定性において優れた性能を発揮します。

誤解3:「価格だけ高い」

購入価格だけを見ると高価に感じられる場合がありますが、オイル寿命の延長やメンテナンス回数の削減、環境リスク低減まで含めたライフサイクルコストで評価することが重要です。環境性能と機械性能を両立することで、長期的なメリットにつながるケースも少なくありません。

 

9. シェル パノリンとは?

シェル パノリンは、環境配慮型潤滑油の分野で長年の実績を持つ「PANOLIN(パノリン)」ブランドを受け継ぐ生分解性潤滑油です。PANOLINはスイスで生まれたブランドであり、35年以上にわたり環境配慮型潤滑油(ECLEnvironmentally Considerate Lubricants)のパイオニアとして、建設機械、林業機械、港湾設備、水力発電設備、船舶など幅広い分野で採用されてきました。

2022年、ShellグループがPANOLINの環境配慮型潤滑油事業を買収し、ブランド、製品技術、知的財産、OEM承認実績を含む事業を継承しました。現在は「シェル パノリン」として、世界有数の潤滑油メーカーであるシェルのグローバルネットワークと、PANOLINが培ってきた環境対応技術を融合した製品展開が進められています。

シェル パノリンの最大の特長は、高品質な飽和合成エステル技術です。生分解性、低生態毒性、生物無蓄積性に加え、優れた潤滑性、耐摩耗性、酸化安定性を実現し、環境性能と機械保護性能を高いレベルで両立しています。また、多くの製品がBosch Rexrothをはじめとする主要油圧機器メーカーの承認を取得しており、過酷な使用環境においても高い信頼性を発揮します。

特にパノリンS4シリーズは飽和合成エステルを採用することで、機器の安定稼働やオイル交換周期の延長にも貢献します。シェル パノリンは、単なる環境対応製品ではなく、高性能潤滑油として多くのユーザーに選ばれている生分解性潤滑油ブランドです。

 

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